朝日新聞 2017(H29)年1月4日(水)夕刊
書評


ラジオ「中西和久ひと日記」本に 差別被害 生の声聞いて

 伝承を題材にした一人芝居で知られる俳優中西和久さんが、人権問題について対談するKBCラジオの番組「中西和久ひと日記」が20年を迎える。昨年11月にはゲストとの対談を本にまとめた。差別的な発言が時に公然と口にされてしまう昨今、「差別を受ける当事者の生の声を聞き、想像力を働かせたい」と話す。
 番組は1997年5月に始まり、毎年夏場の3カ月間放送されている。部落差別、ハンセン病などテーマごとに当事者らをゲストに招き、これまで250人以上と語り合ったという。
 今回まとめた「ひと日記 このひとに会いたい」(海鳥社)には、「ハンセン病家族訴訟」原告団長の林力さんら20人との対話を収録した。
 ハンセン病患者だった父親から「終生の秘密として父を隠せ」と言われた林さんは、教育者として部落差別反対を訴えながら自身の父親のことは口にできずに苦しんだ半生を語った。
 中西さんは「建前の言葉で『差別はだめ』と言っても、今は反発されてしまう。でも差別を受け止めた個人の生の声には、人にその苦しみを想像させる力がある」。
 本には、以前のラジオ収録で、沖縄出身の香蘭女子短大教授、西表宏さんが「沖縄差別と言うんでしょうか。沖縄に何でも押し込めておけば、日本は安泰なんだと。基地の問題もそうですよね」と語った言葉も収録した。
 これまで被差別部落の伝承をもとにした「火の玉のはなし」や、ハンセン病患者の強制隔離を思わせる「をぐり考」などの一人芝居を手がけてきた。「社会の中で生かされている役者として、差別を「許されない非常識」にする文化運動を続けていきたい」

(上原佳久)