西日本新聞 2016年11月12日(土)
「ひと日記」出版記念 中西和久さん 伊藤比呂美さん 対談


「説経節」現代と重ね 表現の核として

 人権をテーマに、福祉や文化などさまざまなゲストを迎えるKBC九州朝日放送のラジオ番組「中西和久ひと日記」が開始20年を迎え、「ひと日記~このひとに会いたい」として書籍化された。6日に行われた出版記念会で、舞台俳優中西和久さんと詩人伊藤比呂美さんが対談した。ともに、苦しむ者がひたむきに生きる語り物「説経節」を表現の核とする二人が「人」への思いを語り合った。
 中西さんは、ひとり芝居で演じる3部作「しのだづま考」「山椒大夫考」「をぐり考」がある。伊東さんは「新釈説経節」として山椒大夫、小栗判官などを自ら現代語訳するとともに「私の詩も小説も全部説経節」と語るほどにのめりこんでいる。対談では伊東さんが「小栗判官」で照手姫が餓鬼阿弥の車を引く場面を朗読後、中西さんの「をぐり考」で全く同じ場面を映像で流し、表現の違いと重なりを味わった。
 伊東さんは「説経節は男も女もかっこいいけど、男は(餓鬼阿弥に姿を変えられた)小栗みたいにどうかなっちゃう。女は皆それを助ける。これって実生活だ!と感動した」と育児や介護に心身を振り乱される現代と説経節を重ねた。中西さんは「説経節は千年前の芸能だけど、口承で文字に残されなかった。二代目若松若太夫さんに三味線を弾くところから一生懸命習い「しのだづま考」になったと語り、庶民の記憶や祈りが刻まれた説経節を演じ続ける覚悟を語った。

◆中西さんの新刊「ひと日記」(海鳥社)はハンセン病、部落解放運動、薬害肝炎訴訟や障害者福祉等の関係者の他、作家石牟礼道子さん、五木寛之さん、伊東さん、俳優小沢昭一さんなど20人との対談を納めている。1728円。(大矢和世)