差別と闘う人紹介
福岡県大牟田市出身の俳優、中西和久さん(60)が人権問題を正面から取り上げるKBCラジオの番組「中西和久 ひと日記」が、放送千回を突破した。差別との戦いは声を上げることから始まる。その前線に立つ人々の生の声を伝えようと、走り続けて17年目になる。
一人芝居「しのだづま考」など差別をテーマにした舞台などにも取り組む中西さん。1997年5月に始まった「ひと日記」は一貫して人権問題を扱う。いじめ、冤罪、部落差別、沖縄問題、憲法・・・。取り上げたテーマは30以上。一週間に一人、現場の声をインタビュー形式で紹介する。スポーツ界の体罰など時事問題も話題にしてきた。
続けられるのは役者として学ぶことが多いからだ。ハンセン病の強制隔離を想起させる一人芝居「をぐり考」を熊本県山鹿市の八千代座で上演しようとしたとき、この番組の取材でハンセン病患者が入所する国立療養所「菊池恵楓園」を訪れ、彼らが八千代座に行ったことがないと知った。
上演を恵楓園の自治会に共催してもらい舞台を見てもらえたが、「差別されていた事実を知り、芝居に魂が入った。番組をやっていたから知ったこと、会えた人がいるのは財産」と中西さんは語る。
放送が千回を迎えた16日の週は、大学卒業後に入った劇団を主宰していた故・小沢昭一さんが戦争について語った6年前の内容を再構成し放送した。
戦前戦後の流行歌や軍歌を歌い、自らの戦争体験を語る舞台「ハーモニカ昭和史」で反戦を訴えてきた恩師の小沢さん。出演時には「世の中で最大の人権侵害は戦争だ。ひもじい思いを知っている政治家はいなくなった。戦争は勝ってもいいものでもない。戦争になりそうな気配が出た段階で止めないと」と話した。
「知らなかったことが多く新たな発見があった」「当事者の声を直接聞くことが一番心に響く」。ファンから寄せられるこうした声が励みになっている。
「これからも当事者に肉薄し、人権を巡る問題についてリスナーと一緒に考えてきたい」と言う。
放送は毎年、夏場の3カ月間。今年は8月30日までで、月〜金曜の午後4時55分〜5時。今週は在日韓国人アーティストの趙博(ちょうばく)さん、来週は中西さんの一人芝居の脚本を手がける劇作家のふじたあさやさんを紹介する。10月ごろから福岡県人権啓発情報センターのサイトで今季の放送分が聞けるようになる。
(安斎耕一)