中西和久さんの「ひとり芝居でない舞台」を初めて観た。
予測と期待を大きく超える秀作だった。
いたく感動した。
在日朝鮮人が登場する作品は多々あるが、「俳人」というのは異色。
実在する彼の句集に想を得て、その苦悶の半生を見事に紡ぎだした脚本の功績は大きい。
舞台は終戦の日から始まり、現代へつながる。
朴栄吉は14歳で大阪に出奔、ヤクザの助けでラーメン屋台から身を起こし、ついには大会社の社長になる。
だが、いつも心の深奥には白濁した澱を抱えているのだ。
差別を恐れて昔は恋人に、今も社長仲間に朝鮮人であることを隠し通す辛さ。
朝鮮人にも日本人にもなりきれず人格を引き裂かれるような悲しみ。
女手一つで育ててくれた母への思慕。
そのような「恨・怨」を折々に詠みこむ俳句が胸をうつ。
やはり大事なのは「情」と「アイデンティティー」だなぁ、と僕は独りごつ。
太鼓・ギター・ハーモニカを演奏し歌い、時に出演者に語りかける趙博さんと、心地よいテンポで引っ張った座長に賛嘆の拍手を。