朝日新聞(夕刊)
2008
年
12
月
5
日 金曜日
舞台 劇評
京楽座「アウトロー・
WE
望郷編」
明暗の半生 在日の迷い
舞台をぐるっと囲むように並ぶ電柱。それぞれに灯る裸電球の街灯が寂しげに見える。
福岡県出身の俳優、中西和久が率いる京楽座「アウトロー・
WE
望郷編」(杉浦久幸・中川小鐵脚本、西川信廣演出、
11
月
19
日、福岡市・ももちパレス)の舞台美術だ。
それだけで、昭和のにおいがぷんぷんと漂ってくる。
福岡市在住の俳人、姜h東の句集「身世打鈴」を原作に創作した物語だ。
主人公は在日コリアン2世小山(中西)。
中卒で大阪に出て働き始め、苦労を重ねて企業家として成功する小山の半生が描かれる。
そこにつきまとうのは在日への差別だ。
日本人からばかりではない。
母国を訪ねれば、同胞からも差別される。
だからといって、声高に告発するわけではない。
日本で生まれ育った在日2世が、どこにアイデンティティーを求めたらいいのか。
その迷い、苦しみが描かれる。
中西の飄々とした演技が、湿っぽくなりがちな物語を救う。
舞台上で演奏し続ける趙博(パギやん)の野太い歌声もいい。
主人公を常に支え、見守る。筋目ごとに映し出される俳句が、舞台の印象を強め、引き締める。
敗戦直後の日本人の多くも実は等しく貧しかった。
その隣にいたのが在日の人々だ。
だからこの舞台は、在日の物語であると同時に、日本人の物語とも見えてくる。
裸電球の街灯はほのか。
光の輪の向こうには、闇が広がっていた。
闇があるから、光が生きる。
明暗があるからこそ生まれ出るエネルギーもある。
雪が降りしきる中、在日として生きる決意をするラストシーンは美しい。
先行き不透明で、アイデンティティーをもちにくい現代だからこそ、忘れてはいけない昭和を思い起こさせるこの舞台は貴重だ。
(佐々木達也)