朝日新聞(夕刊) 2008125日 金曜日
舞台 劇評
京楽座「アウトロー・WE 望郷編」

明暗の半生 在日の迷い
舞台をぐるっと囲むように並ぶ電柱。それぞれに灯る裸電球の街灯が寂しげに見える。
福岡県出身の俳優、中西和久が率いる京楽座「アウトロー・WE 望郷編」(杉浦久幸・中川小鐵脚本、西川信廣演出、1119日、福岡市・ももちパレス)の舞台美術だ。
それだけで、昭和のにおいがぷんぷんと漂ってくる。


福岡市在住の俳人、姜h東の句集「身世打鈴」を原作に創作した物語だ。
主人公は在日コリアン2世小山(中西)。
中卒で大阪に出て働き始め、苦労を重ねて企業家として成功する小山の半生が描かれる。
そこにつきまとうのは在日への差別だ。
日本人からばかりではない。
母国を訪ねれば、同胞からも差別される。


だからといって、声高に告発するわけではない。
日本で生まれ育った在日2世が、どこにアイデンティティーを求めたらいいのか。
その迷い、苦しみが描かれる。


中西の飄々とした演技が、湿っぽくなりがちな物語を救う。
舞台上で演奏し続ける趙博(パギやん)の野太い歌声もいい。
主人公を常に支え、見守る。筋目ごとに映し出される俳句が、舞台の印象を強め、引き締める。


敗戦直後の日本人の多くも実は等しく貧しかった。
その隣にいたのが在日の人々だ。
だからこの舞台は、在日の物語であると同時に、日本人の物語とも見えてくる。


裸電球の街灯はほのか。
光の輪の向こうには、闇が広がっていた。
闇があるから、光が生きる。
明暗があるからこそ生まれ出るエネルギーもある。
雪が降りしきる中、在日として生きる決意をするラストシーンは美しい。


先行き不透明で、アイデンティティーをもちにくい現代だからこそ、忘れてはいけない昭和を思い起こさせるこの舞台は貴重だ。

(佐々木達也)